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2017.03.24

最強のホットロッド・ベンツ ーー メルセデス・ベンツ300SEL6.3(1968~1972)/450SEL6.9(1975~1980)

マーティン・バックリーにとって、この2台のシュトゥットガルト最強のマッスルカーであるメルセデス6.3と6.9を比較せよというのは、最愛の子をひとりだけ選ぶようなものだろう。

この両車は共にビッグブロックのエンジンを搭載しており、また「メーカー純正ホットロッド」ならではの繊細さも兼ね備えているのだから、メルセデス300SEL 6.3とその後継にあたる450 SEL6.9を同じシリーズの2台と考えるのは自然なことだ。しかし、この2台を相互に乗り比べる機会があったなら、実際にこの2台がどれだけ似ているのか疑問を感じ始めるはずだ。確かにストップウォッチを相手に加速を測ればほとんど互角だが、旧型のほうが荒々しさとスリルを感じさせるのに対し、新型はより洗練された熟成が感じられる。エンジニアリングの行き届いた6.9のほうがより明確にメルセデス・ベンツに期待されるものを体現しているが、一方で6.3はそこから少々外れた、一連の幸運な偶然の産物という印象を与える。

シュトゥットガルトのダイムラー・ベンツAGの名誉のためにあらかじめ言っておくが、同社は1度たりとも偽って他のクルマを装うような事はやったことがない。もっとも、開発エンジニアのエーリッヒ・ヴァクセンベルガーが自分のプライベートな時間に「予備の」600用エンジンを「予備の」W109ボディに載せたという逸話は、繰り返し語られるたびに話に尾ひれが付いていくが、それもまるで軍用車のような硬い乗り心地の設計が、比較的若かったエンジニアにスペシャルモデルを造る口実を与えたのだろうという怪しげな話を信じられればこその話である。実のところ、60年代で最もエキサイティングなメルセデス・ベンツの誕生に関する真相は、単純に怪物級の出力で、しかも威圧的で巨大な600がそれ相応の台数しか売れなかったからであり、その対策として経営陣は開発コストを回収し、同社の253psのV8のために第2の家を見つけることにより予備の製造キャパシティを活用したということだった。


1968年に入り、BMWとオペルからのニュー・モデルによる攻撃を受けて、アウトバーンの王者という定評を徐々に失い始めていたメルセデス・ベンツにとって300SEL6.3サルーンの登場は、販売とイメージ再構築のサクセス・ストーリーを得ることとなった。エア・サスペンションのロング・ホイールベース版W109のボディシェルは、それまで172psの直6より強力なパワープラントを全く持っていなかったが、300SEL 6.3はそれ以前に売られていたいかなるサルーンよりも強力な加速力を得ることになり、当時の911をも凌駕したばかりか、公道仕様のフェラーリにもほとんど負けることはなかった。

誰もがこのクルマを愛好したが、特にアメリカでは人気があり、Road & track誌はロードテストの際に有名な「要するに世界最高のセダンと言うだけだ」というサブタイトルを残している。欧州では、6.3はほとんどのフォーミュラ1のレースでグリッドの半分を占めるドライバーたちのお気に入りの公道交通手段として愛好された。このようなクルマは他には何もなかったのである。


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